ダイニングカフェ・パウゼ
~雨が似合う処~
〇月×日
寂寥をたたえた秋の静雨。
木々が濡れそぼり、静寂を取り戻した空間の中で、
窓ガラスをすぅっと音もなく流れていく、無数の水滴を見つめる。
しっとりとした気配がまわりの喧騒を飲み込んでいく。
なんて心地いいんだろう。
まぶしすぎる太陽も好きだけど、
たまにはこんな日があっていい。
うすら寒く、毛布にくるまった
避暑地での遠い夏の日の記憶…。
忘れかけていた思い出のかけらを拾う。
微かな雨音が懐かしい調べを奏でながら
静かに時空(とき)を刻む。
八ヶ岳南麓の森の中に佇む、
別荘のような趣のダイニングカフェ・パウゼ。
靴を脱いで上がると、瀟洒なホテルのようなしつらえ。
30年間ペンションとして愛されていたこちら、
現在では1階はコンサートなどイベントに使用されているそう。
カフェ&ダイニングスペースは2階へ。
こんな雨の日には、大好きなクロックマダムを頬張る。
カリッと焼き上げた、コンプレ堂の滋味深い玄米カンパーニュの上には、とろけ出るチーズと半熟目玉焼き。
ナイフを入れると、とろ~りと黄身が溢れ、ハム日和のショルダーハムの程よい塩味が存在感たっぷりに口の中に広がっていく。
さすが、洋食を極めたシェフの作るベシャメルソースはひと味もふた味も違う。
今日は美味しい幸せをだれかとシェアせず、ひとり占めしてみる。
これはこれで、なんて贅沢なんだろうと思う。
食後はフレンチプレスのコーヒーを。
こんな雨の日には、軽めの味わいがいい。
シティローストで焙煎されたプリムビーンズのソフトブレンド。
するすると落ちていく砂時計に時をゆだね、
心のすきまを埋めていく。
雨が似合うこの場所で
雨音が拾ってきた
思い出のかけらを集めながら。
-北杜市
料理と器とワインをこよなく愛するママ編集者。
性格がおおざっぱなため、お菓子作りは失敗しがち。
最近は酵母菌を我が子のように可愛がっているらしい。