Silver Spoon
~ひと匙のノスタルジー~
〇月×日
はらはらと木の葉が舞ったかと思ったのもつかの間。
確実に時間は流れ、ときは移り変わり、
気がつけば、もう土の下では芽吹く力に溢れていた。
今日が永遠に続くと信じて疑わなかった、幼い自分はもういない。
繊細な季節の移ろいに心を寄せるようになったのは、
今までの駆け抜けた日々を振り返る余裕ができたからだろうか。
上宿交差点を上り、富士浅間神社の裏手、
静かな森の中にそのカフェはある。
知らなかったら、絶対来られないような隠れ家。
Silver Spoon(シルバースプーン)。
木々の枝葉から差し込む日の光が風に揺れて
美しさ織りなすレース模様を描く。
ご両親が洋食屋さんを営んでいたという築40年以上の面影はそのままに、現在は手作りの焼菓子とランチのお店に。
大きな窓から木漏れ日を浴びた深い緑を望み、
寒い冬でもまるで屋外にいるかのような開放感を味わえるのが好き。
夏の眩しいほどに輝く自然もいいけれど、こんなに穏やかで、どこかノスタルジックな緑はこの時期ならではの贈り物だ。
ここでいただけるランチは、日替わりワンプレートのワンメニュー。
本日は素朴だけどあったかい、心の中から元気になれる和定食。
メインは鶏肉の塩麹オーブン焼き。発酵の力でしっとり柔らか~。
卵とみょうがのスープが、じんわりと体の芯から温めてくれる。
そして、付け合わせがどれも驚くほど美味!付け合わせが付け合わせでなくなる瞬間…。
爽やかな酸味と辛みが絶妙の茄子の揚げ浸し、ふんわり厚焼き玉子、ピーマンのおかか和えに、湯豆腐はオリーブオイルとお塩で。
微かに流れる心地いい音楽と、ぽこぽことお湯を沸かす音がやさしく響き、心癒される。
フレンチプレスで丁寧に淹れてくれたコーヒーの、まろやかな苦みが舌を包む。
ここに来たら、お菓子は必須!
スプーンですくうと、中からチョコがとろ~り。
濃厚でコク深いフォンダンショコラを。
静かな森の中で憩う静寂のときが、色褪せた記憶を連れてくる。
ひと匙のノスタルジー。
輝きを取り戻した追憶の日々を
シルバースプーンにのせて…。
-富士吉田市
料理と器とワインをこよなく愛するママ編集者。
性格がおおざっぱなため、お菓子作りは失敗しがち。
最近は酵母菌を我が子のように可愛がっているらしい。