渡辺 光美さん(52歳) 西桂町出身 甲府市在住
”リズムオブラブ主宰・やまなし大使”
一つひとつがかけがえのない命。
その大切さを伝えるために、自らが考案したリズム運動に格闘技や礼儀作法などの要素を組み合わせた「山梨発信!健康安全郷育プログラム」を提唱し、幅広い年齢層を対象に指導している渡辺さん。
そのプログラムとは一体どんなものなのでしょう。
11月上旬、小瀬スポーツ公園内武道館で行われていた「あそびのおけいこ教室」を訪れました。
かけがえのない命を自分で守る力を体で伝える
「この“あそびのおけいこ教室”は、入園前の子どもとその親が対象です。」
そうハキハキと教えてくれた渡辺さんのこの教室では、子どもたちのはしゃぐ声と、母親たちの楽しそうな声が響きます。
この教室は、リズミカルな音楽に合わせコミュニケーション能力を養いながら、かけがえのない命を自分で守る術を親子で楽しく学べるのが特徴。
「私の講座が一番心に響くのは、小さいお子さんを持つ保護者です。特にこれから本格的に子育てに携わろうという世代のお母さん方は、非常に熱心に聴いてくれます。いざという時に、自分の命を守る力を親子で身につけなければなりませんからね。」
教育現場からの転機
10歳の頃から小学校の教諭になるのが夢だったという渡辺さん。
当時の担任が非常に熱心で、自分もそんな熱血教師を夢見たのだそう。
教諭の道を目指す中で、日本だけでなく世界に視野を拡げたいと大学生の時にオーストラリアでホームステイを経験。
そこで現在の活動の原点となる“リズム教育”と出会います。
日本にはない斬新な教育に初めは驚いた、と渡辺さんは語ります。
「その頃、日本では『起立、礼』の習慣でしたが、向こうだと授業の始まりも終わりも音楽だったんです。リズムが学校生活に根付いているというか・・・それが衝撃的でしたね。」
その後、小学校教諭の夢を叶え児童たちを熱心に指導していた矢先、転機となる事件が起きます。
児童8人のかけがえのない命が犠牲になった悲惨な『大阪・池田小児童殺傷事件』です。
「安全だと思われていた学校で8名もの尊い命が奪われ、安全神話が崩れてしまいました。当時小学校教育現場にいましたが、もしかしたら学校では教えきれないもっと重要なことがあるのではないかと思い、それは何かと考えた結果、たどり着いたのはかけがえのない命を大切にする教育・命を土台にした教育だったんです。子どもを被害者にも加害者にもさせないためには、『自己肯定感・自尊心』を育むことが必要なのだと。」
そんな思いを抱えてきた渡辺さんに、さらに追い打ちをかける決定的な出来事が起こります。
14年間闘病していた実父の死、そして生後間もない頃に生死をさまようほどの経験をした息子さんの病気です。
この経験を通して芽生えた“一度しかない生かされた人生、悔いなく精一杯生きたい”という強い気持ち。
その思いを胸に、“かけがえのない命を大切にする教育”を行うという大きな使命を果たすべく、小学校教諭というキャリアを終える決心をします。
「教育」から「郷育」へ
2008年、教員生活にピリオドを打ち、ボランティア団体「リズムオブラブ」を2009年に設立した渡辺さん。
自身のふるさと・山梨を元気にするための「郷育」を掲げ、毎日県内各地を飛び回っています。
「今では1ヶ月に約1,000人、年間1万人以上の県民の皆様と交流させていただいています。おかげ様で多くの県民の皆様に応援してもらえるようになりました。」
そう語る渡辺さんの基本的な活動は、『心を弾ませ体を動かしながら、楽しみつつ命の大切さを学ぶこと』をモットーとした体験型講演会。
高齢者には介護・認知症予防、交通安全や詐欺被害防止、幼児や児童には防犯や不審者対応・連れ去り防止、企業向けには心のケアやストレス解消などを目的としたものなど、受講者の年齢や環境によって展開するプログラムは異なるものの、それらすべての根底にあるのは“かけがえのない命を愛すること”なのだと渡辺さんは言います。
「郷育」からさらに「響育」へ
現在渡辺さんは山梨県内だけにとどまらず県外・海外での仕事も増えてきており、さらに活動の幅は広がっています。
「元気で明るく安全な山梨創りに『協働』してくださる県民・行政・企業の皆さんがもっと増えてくれたら嬉しいですね。私はこの山梨に育てられたので、『協働』することで故郷に恩返ししたいんです。」
小学校の教諭としておこなっていた「教育」が 、山梨全県一区を対象にしたふるさと・山梨を元気に明るく安全にする「郷育」 、そしてこれからは人の心に故郷の音を響かせることを目指した「響育」にしよう、そんな思いを胸に渡辺さんは今日もエネルギッシュに活動しています。