Release:23.11.02
僕の珈琲
~世界中から愛をこめて~
〇月×日
地球は広い…。
生きている間に、私はあとどのくらいの世界を見ることができるんだろう。
そう感じたのは、20年以上前のアフリカ旅行だった。
最近めっきり、人生を豊かにしてくれる旅からは遠ざかっているが、日常を豊かにしてくれる旅なら、何も海外じゃなくても、飛行機に乗らなくても叶う。
そんな私の旅は、いつも日常と背中合わせ。
いつもは意識していない富士山も、その美しさに息をのむ瞬間がある。
気づけばその日の天気や見る場所、はたまた心境によって、全く違った表情をしているものだ。
甲府に住んでいると、河口湖から見る富士山は迫力があって何度見ても感動してしまう。そう、ここ「僕の珈琲」からも。
最初に訪れた時、店名がとても印象的だった。
“僕”とはてっきり店主のことだと思いきや、実はここで扱っている豆の生産者、レディくんのことと知り、驚いた。
そして彼がインドネシアの大学から北杜市の農業インターンシップに参加していて、その後故郷に戻り、コーヒー栽培を始めたこと、インターンシップ時代の縁で“僕の作る珈琲”を日本の人にも飲んでほしいという思いが叶ったこと…。
“僕”の生豆を店の敷地内に作った焙煎小屋で、店主の酒井寿子さんが丁寧にローストする。
甘い香りがあたりに漂い、だんだんカラメルのような香ばしい香りに。
しばらくその香りに包まれていると、個性豊かなコーヒーのいい香りが…。
産地や品種により様々な特徴を持つコーヒー豆が、焙煎度合いによって香りが変化することを実感する瞬間だ。そりゃあ味も変わるわけだと納得。
焼きたての豆を購入することもできるが、今日はテラスで至福の一杯をいただこう。
富士山を眺めながら、フレンチプレスで3分。1杯のコーヒーを待つ時間は、私自身の蒸らし時間。
ふっくらと心がやわらかくなって、奥底にあったコクと甘みが染み出していく。苦みやコーヒーのクセも全部含めて、豆の個性をそのままに余すことなく楽しめるフレンチプレスは、今の私に一番しっくりくる楽しみ方。
ランチにはエルサルバドルのディナさんお手製のププサを堪能できるということで、早速店内へ。
靴を脱いで上がると、まるで友達のおうちに招かれたようにくつろげるのだ。
ププサ初体験の私に、ディナさんがやさしく笑いかける。
「ププサはお店でも家庭でも食べられる、日本の“おにぎり”みたいなもの。毎日のように食べるし、お店によっても家庭によってもみんな味が違って、みんないい」。
エルサルバドルのソウルフード、ププサは、豚肉や豆のペーストとチーズを米粉生地に包んで平べったくして、カリッと焼き上げる。
現地さながらに手でちぎって食べると、もっちりした食感でチーズがのび~る。
そのままでもクセになる美味しさなんだけど、自家製トマトソースをかけたり、クルティードを包んだり。決まった食べ方はなくて、自分流に好きなスタイルで食べれば、それでよし♪
ププサには「オルチャータ」を。
ナッツやお米をミキサーにかけ、ミルクとはちみつを加えたまろやかで独特の風味が香るドリンクは、ププサとの相性抜群!
ディナさんちで子どもたちに大好評のしっとり甘酸っぱいレモンケーキとともに。
まだ見ぬ遠い異国の風を感じながら、広い世界に思いをはせる。
「僕の珈琲はマンゴー、ドリアン、バナナと一緒に育っています」。
世界中から愛をこめて…。
料理と器とワインをこよなく愛するママ編集者。
性格がおおざっぱなため、お菓子作りは失敗しがち。
最近は酵母菌を我が子のように可愛がっているらしい。