すきまのじかん L’heure vide
~はかなく穏やかな愛おしい余韻~
〇月×日
今日は朝から忙しかった。
取材をぎっしり詰めて入れたせいだ。
時間を計算し、事前にアポを効率的にとっているにもかかわらず、取材の状況次第では、思いがけず突如ポンとあいた時間ができることもある。
どんなところにも必ずある、「すきまのじかん」。
そういえば、近くにそんな名前のカフェがあったっけ。
すきまのじかん。
なんて素敵な響き。
愛らしくって、壊れそうで、やわらかな、大切にしたい…そんな温度を持っていることば。
こぢんまりとした小さなお店には、テーブル席が3つと奥にカウンター席が続く。
やさしいイエローと白壁が、“たいようの時間”を彷彿させる。
もうすぐ訪れる“やみの時間”までの、ほんのわずかな“すきまのじかん”。
穏やかな日差しが、慌ただしかった午前中すべてをあっという間に包み込んでしまう。
温かい柔らかな光に、雪がとけるように心が落ち着いていく。
ランチは好きなガレットに本日のスープ付き。ランチドリンクはプラス100円で、コーヒー、紅茶、ゆず茶、オレンジジュース、リンゴジュースの中から選べる。
やわらかヒレ肉にブルーチーズのクリーミーな濃厚ソースがたっぷり。
大ぶりのしゃきしゃきキノコに、粒黒コショウが効いている。
パリッとしたそば粉のクレープに包んで、ひと口。
ランチアルコールは100円引きか…。絶対ワインが欲しくなる味だ。
これをじっと我慢するのは、なかなかきつい。
自家製ピクルスがさわやかな風を舌に運ぶ。
本日のスープは、ほんのりナチュラルな甘さが絶品のさつまいものスープ。
肉食男子のカメラマンKは、がっつりステークアッシェのガレットをチョイスしていた。
牛肉100%のフランス風ハンバーグをオニオン・アーモンド・チーズ・サラダとともに。
本場フランスへガレットの修業に留学したという店長の熱い思いが詰まった種類豊富なガレットは、何を食べてもはずれがない。
食後のコーヒーが、美味しい余韻を楽しませてくれる。
短いけれど、穏やかな、愛おしいじかん。
1日の中で、曖昧な、だけど心豊かな“すきまのじかん”を今日も大切にしよう。
日々の忙しさに流されてしまわぬように。
-甲府市
料理と器とワインをこよなく愛するママ編集者。
性格がおおざっぱなため、お菓子作りは失敗しがち。
最近は酵母菌を我が子のように可愛がっているらしい。