Release:23.12.15
niwa to ki terrace
~家族の記憶
〇月×日
私の実家は庭がとても広い。週末は家の中にいる時間より、庭で過ごす時間の方が長かった。
父の趣味は庭いじり。季節の草花だけでなく、キュウリやトマト、ナスに無花果やいちご、びわまで、あらゆる野菜や果実を育てていた。
幼い頃の私は、花にも野菜にも果物にも全く興味がなかったけど、草取りを手伝った後に家族みんなが集まって、庭で食事する時間が大好きだった。
どこか遠くにお出かけするよりも、ずっとずっとワクワクする、日常の中の特別なひと時…。
大人になりアパートでひとり暮らしをはじめて、結婚してマンションに住んで、そして今に至るまでずっと庭のない生活を続けている。
そんな私が、ふと、幼い時のあの胸を高鳴らせた、キラキラしたなんでもない時間を思い出す場所がある。
河口湖の「niwa to ki terrace」。
エクステリアや造園を手掛ける「エスティナ河口湖」から生まれたグリーンショップなんだけど、単に花の苗や観葉植物が買えるだけでないのが、こちらのすごいところ。
まさに “niwa to ki”(庭と木/庭時)という店名に込められた思いの通り、庭と木々のある情景、そしてそこで過ごす様々な時間やシーンが想像できるのだ。
お花やグリーンと共に、ガーデニング雑貨はもちろん、オーナーがセレクトしたセンスのいい生活雑貨も一緒にレイアウトされていて、切り取られた日常の一部が透けて見える。
ふんわりと手で包み込む丸いフォルムが可憐なチューリップは、春に咲く花の代名詞。
来年も、実家の庭には色とりどりのチューリップが咲き乱れ、春の訪れを教えてくれることだろう。
色鮮やかな花もいいけど、今ときめくのは、ダークなニュアンスカラーの植物たち。
ピレアエレンのメタリックなシルバーリーフの質感に魅せられ、曲がりくねった針金のような枝にグレーがかった葉がシックなコロキアに、心が揺さぶられる。
庭がなくても、鉢や花瓶などを植物に合った色あいや素材で選んで飾れば、空間に彩りが生まれ、平凡な生活に穏やかな潤いを吹き込むことができそうだ。
植物にも庭いじりにも全く興味がなかった幼かった頃とは違って、毎日お世話をしていると気づく、ほんの小さな感動が忙しない1日を乗り切る栄養剤になることを知っているから。
年老いた父は、今日も元気に庭いじりをしているだろうか。
庭で過ごした、あのなんでもない、でもこの上なくキラキラした家族の記憶をたどりながら。
器ありきの料理を考えるのが趣味のママ編集者。ホームパーティにはテーブルコーディネートやお部屋のデコレーションまで張り切るが、最近は成長した子どもたちの反応が薄いと嘆いている。